プロ野球「現役ドラフト」の問題点「解雇予定の選手をあえて残留させる」可能性も
出場機会に恵まれない選手の移籍活性化を目的として、2022年オフから始まった「現役ドラフト」。24本塁打を放った中日の細川成也野手、12勝をマークして日本一に貢献した阪神の大竹耕太郎投手など、この制度をキッカケに活躍した選手は少なくない。第2回目が12月8日に開催され、12選手の移籍が決まった。結果は以下の通り。※()内は元の所属球団
阪神:漆原大晟投手(オリックス)
広島:内間拓馬投手(楽天)
DeNA:佐々木千隼投手(ロッテ)
巨人:馬場皐輔投手(阪神)
ヤクルト:北村拓己選手(巨人)
中日:梅野雄吾投手(ヤクルト)
オリックス:鈴木博志投手(中日)
ロッテ:愛斗選手(西武)
ソフトバンク:長谷川威展投手(日本ハム)
楽天:桜井周斗投手(DeNA)
西武:中村祐太投手(広島)
日本ハム:水谷瞬選手(ソフトバンク)
9投手、3野手と投手の移籍が目立っているが、プロ野球に精通している識者はどのように見たのだろうか。『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)の著者、野球著作家・ゴジキ氏に、今回の現役ドラフトの傾向、現役ドラフトの問題点などを聞いた。
◆リストアップされた選手が無難なワケ
まず、今回の現役ドラフトに関する率直な感想を聞くと「無難な印象を受けました」と回答し、こう続けた。
「現役ドラフトでは、各球団が外国人選手や複数年契約選手などを除いた2人以上の選手を選び、その中から指名をしていきます。どの球団も慎重にリストアップする選手を選んだ印象です。構想には入っていないけど実績があるから他球団からの需要は見込める……つまりはシーズン途中に“トレード補強するための要員”として考えられていた選手が、主にリストアップされていたように思います」
先述した細川選手や大竹投手のようにチームの中心になり得る選手が2022年以上に指名・移籍されると予想する野球ファンもSNSで見られた。
「今年活躍した選手の姿もリストアップに影響したように思います。球速や飛ばす力(飛距離)は練習で身に着けられるものではなく、生まれ持ったポテンシャルが大きい。細川選手はまさにそのタイプです。そういった潜在能力が高いものの、まだまだ芽が出ていない選手を放出候補とすることについて慎重になってもおかしくありません。野手で言えばユーティリティプレイヤー、投手で言えばある程度まとまったリリーフ投手がリストアップされやすかったのではないでしょうか」
◆意外だった選手はあの“若獅子”
とはいえ、ゴジキ氏は「『うちでは育てられないけど他球団なら良さを伸ばしてくれるかも』という親心もあったように思います」と推測する。
「例えば、巨人からヤクルトに移籍した北村拓己選手は、長打力が持ち味の大型ショートとして“ポスト坂本勇人”という期待を集めて入団しました。しかし、ショートだけではなくサードもそつなくこなせるがゆえに、器用貧乏の印象もありました。巨人側としても『北村選手のため』にリストアップしたのかもしれないですね」
今回の現役ドラフトで“意外な選手”はいたのだろうか。
「個人的には愛斗選手です。2022年に121試合に出場して、今シーズンも73試合に出場しており、年齢も26歳と若い。西武としても『中心選手として育てていこう』と考えていたと思っていたので驚きました。想像の域を出ませんが、やはり『現状の環境では育成していくことが難しい』と苦渋の決断を下したのかもしれません」
◆現状ではいつか“損する球団”が?
現役ドラフトは、当初の目的に沿った制度になっているのだろうか。ゴジキ氏は「まだ2回目なので明言は難しいですが」としつつ、「他の移籍制度との違いが曖昧ですよね」と話す。
「先ほど『リストアップされた顔ぶれが無難』と話しましたが、恐らく今後しばらくはこうした傾向が続くと思います。しかし、それでは『トレードと何が違うの?』となってしまう。例えば、『28歳以下の選手』『1軍で100試合の出場経験』など、何かしらの条件を設けることにより、現役ドラフトだからこその良さが見い出せるはず。
そうした枠組みを設けなければ、実績のある選手ばかりリストアップしたことで損する球団が出てきてしまう。場合によっては本来は解雇予定だったものの、現役ドラフトにリストアップするためにあえて残留させる、という事態も起きかねません。とはいっても始まったばかりですので、活発な議論が行われて良い方向に進んでほしいものです」
確かにリストを制作する際におけるルール作りは喫緊の課題かもしれない。日本ハムに移籍した水谷瞬選手は現在22歳で1軍出場経験はない。その一方で、DeNAに移籍した佐々木千隼投手は2021年に54試合に登板するなど、一定の地位を築いた選手である。
今後、水谷選手が活躍する可能性は十二分に想定されるが、実績のある中堅選手と実績のない若手選手が同列で扱われることには違和感を覚える。選手にとって、そしてプロ野球にとってより良い制度にするためには、各方面からの意見を柔軟に取り入れるべきだろう。
<取材・文/望月悠木>
【ゴジキ】
野球評論家・著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)・『アンチデータベースボール』(カンゼン)・『戦略で読む高校野球』(集英社新書)・『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディアの取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

(出典 news.nicovideo.jp)
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